スーツで回るアイドルショップ


 カン、カン、カンと音がする。バッジを作る、音がする。〜久し振りに訪れた

が、アイドルショップはやはり、居心地がいい。名古屋市栄にある某雑居ビル

をエレベーターで7階ほど上り、そこから一歩踏み出せば、辺りは一面の花

模様。天井にはサンプルポスター、壁にはサンプルうちわを携えて、スーツ姿

の私を温かく包んでくれる。そう、私がアイドルショップに寄ったのは、就職活動

の帰りのことであった。


 ところで、私の知る人々の多くは、アイドルショップへ行くことをことごとく嫌がる。

アイドルに興味が無いわけでは無いのだが、アイドルショップのように数千枚、

数万枚のブロマイドを始めとして、店舗全体がアイドルグッズで埋め尽くされて

いるようなマニアックな場所に足を踏み入れるのは恥ずかしく、気が引けるらしい。

ましてや一人で入ることなど到底考えられないそうだ。私はその点、アイドル

ショップへは集団で入るにしろ一人で入るにしろ、何の思い煩いも無いのだが、

それにしてもスーツ姿で入るのはいかがなものかと一瞬悩んでしまった。アイドル

ショップといえば、まず思い浮かぶのは原宿。だからアイドルショップをスーツ姿で

入るとなると、あたかも原宿の竹下通りをスーツで歩くかのようで、場違いの感

を拭えない、そう思ったのである。


  しかし、ここで考え直してみよう。アイドルショップに入るのに、スーツでは行け

ないなんて道理が、果たしてあるだろうか。安倍なつみの写真を見るには、ラフ

な服装でないといかんのかい?背広姿で松浦亜弥とプリクラに写っちゃ、だめなの

かい?そのように思いを巡らすうち、迷いなんぞは栄の蒸し暑い空へ、余すところ

なく蒸発してしまった。


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