大リーグより面白い欧州リーグの野球

 8月1日,午前9時。私は列車の中にいた。目指すはボン,ドイツの前首都である。この

日は友人に招待されて「欧州野球選手権2001」を観戦することになっていた。その友人は

韓国から来た留学生で,野球チーム「Bonn Capitals」の三軍に所属している。ヨーロッパと

いうとサッカーやF1ばかり浮かんできて,野球なんてイメージできないかもしれないが,少なく

ともドイツには野球の「ブンデスリーガ(一部リーグ)」が存在する。ちなみにケルンに本拠を

置くチームは「ケルン・ドジャース」(弱そう…)という。しかし今回の試合は「欧州野球選手権」

なので,ブンデスリーガではなくヨーロッパ各国からの代表チームによって争われるリーグ戦で

ある。日本を離れてはや4ヶ月,野球をしばらく観ていなかった私はわくわくしながらスタジアムへ

向かった。


 スタジアムに到着したのは午前10時,丁度第一試合の始まる時刻。目の前にある入り

口を抜けようとすると奥の方から突然警備員が表れ,「入場料を払え」と一喝される。顔面

から流れ落ちる途端の冷や汗。私は友人から入場料が必要であることを一切聞いていなかった

のである。入り口にあるプレートを見直すと確かに「一日券 27マルク」と書いてある。しかし

手元に金は無い。とりあえずキャッシュ・ディスペンサー(以降CD)の場所を受付に尋ねると

「徒歩で30分の所にある」と言われた。馬鹿な!それだけの時間があればケルンへ帰れる

ではないか!しかし背に腹は替えられぬ。私は一時的にではあるが歓声の沸きあがる

スタジアムを涙涙に後にした。


 しかしその後が本当の騒動であった。行けども行けどもCDが無い。「ドイツ郵便局」のボン

支社を訪ねたところ,私は自分の異常にラフな服装のせいか警備員につかまり,思わず口

からでた「Ich brauche Geld」(お金が必要だ)という表現が郵便局員の間でさらに誤解を

招き,野球観戦どころでは無くなった。取り敢えず郵便局を脱出し,別の銀行を見つけ

お金を下ろした頃には,既に正午過ぎ。この日の午前の騒動は大リーグのどんなプレーより

もエキサイティングであった。


 前述のような騒動のせいで,当日の第一試合「クロアチア対イタリア戦」は見事に見逃した。

次の試合はフランス対ベルギー。私は昼食を済ませ早々と席を取った。試合の実況形式は

次の通りである。実況席に常駐しているDJらしき人物が,アラン・Jばりに淡々と唸る,それ

だけである。私はむしろその実況,及び試合内容よりも,観客による応援の凄まじさに圧倒

された。それは特に,この日最後の試合であった「ドイツ対スゥエーデン」戦に顕著に表れる。


 この日最後の試合は選手権の開催国ドイツの試合ということもあって,観客席は今まで

に見ない盛り上がりようであった。午後5時に試合が開始されると,それと同時に観客席

最前列にいた中年の男性が,どこに隠していたのか知らないが全長3メートル程のポールを

空高く掲げ,そのポールに結ばれていた黒,赤,金のドイツ国旗を力強く風になびかせ

始めた。しかしいくらなんでも国旗が大きすぎる。旗が揺らめくたびに,通行人がそれに

引っかかったり,転んだり,息が出来なくなったり,散々であった。しかし誰もそれを止めない

のは彼らの寛大さの表れか(止めろよ!)。


 次に,スポーツ観戦にはお決まりのウェーブであるが,私はこれが強制的なものだとは知ら

なかった。私のいる列から始まったウェーブは,作戦部長みたいな人が,立ち上がる合図

などについて観客と打ち合わせをした上で行われたが,私は始めその合図に従わなかった

ので怒られた。2回目も合図を無視すると周りの観客から村八分的な扱いを受けたので

3回目はしぶしぶ従った。驚くべきことにその後私はさっきまで私を完全にしかとしていた隣の

観客からファンタをご馳走されたりしたのである。とかく安易に考える民族だと思う。


  最後に応援中の掛け声であるが,ドイツチームの応援席から常に叫ばれる「Joji(或い

はGeorge)」という人物名が私にはとても奇妙に思えた。そんな選手はチームの中にいない

のに。アダムスファミリーのテーマが流れるとその後に決まって「Joji!」,観客席が盛り上がりに

かけると決まって「Joji!」。私は野球の応援について詳しいことは知らないが,Jojiに何らかの

意味があるとは想像しにくい。これは日本のプロ野球で言えば阪神対巨人戦で「愛甲!」

とか叫ぶようなものではないか。  


 言い忘れたが,この日は日差しが強かった,私は熱射病で死にたくなかったのでこの試合の

結末を見届けることなくスタジアムを後にした。何かとトラブルの多いボンであったが,帰りの

列車を待つ30分程の間に訪れたボン駅周辺の繁華街は旧首都ということもあって,さすがに

雰囲気の良いものであった。〜 というわけで,実際の試合の内容には一歩も踏み込まず,

題名とは全く関係のないレポートでした♪ (終)


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