御用達ビストロ閉鎖の実態


 ドイツでの食生活には色が無い。自炊能力の無い私は昼食を食堂ですませ、夕飯は寮近くの

ビストロで済ます。ビストロと言うと聞こえが良いが売っているのはポテトやピザや丸焼きチキンなどの

ファーストフードであって、とんだ生活習慣病養成マシンである。ともかく私は毎晩をこのビストロで

過ごし、その他のビストラーと時を分かち合い、店のママ (あえてママと呼ぶ)とも打ち解けていた。

ママは休暇にトルコへ行くと話していた。この至福の時がもろくも崩れ去ったのは昨晩になってからの

ことである。


 夜10時いつものようにビストロ街道(200M)を抜けた私はビストロにいつもの賑わいが無いのに

気づいた。というか、やってないではないか!この店は年中無休で、11時まで営業しているはず

なのに。真相を確かめるべく店の前の張り紙を見たところ,「Urlaub(休暇)」の一語。ママが言って

いた「トルコ旅行」とは店員全員の旅行だったのである。ちょっとした休暇なら仕方ない、菓子パンを

買い込んで過ごそうと思ったが、「Urlaub」の期間が「8月10日迄」と書いてある。「あほめ!」こんな

反逆があってよいのか。昨日まで休暇のキュの字も言わず笑顔でポテトを揚げていたイタリアンが、

我が夜の至福の時を奪った。2週間ならまだしも4週間なんて。(続く)


 憤ったのは私だけではなかった。今日暇だった私は30分ほどビストロの前をこっそり監視していた

が、その任意の30分間でさえ7人の人間がビストロを訪れ、張り紙の文字に肩を落としたのである。

「調理人 休暇がそんなに尊いか そうする間に餓死一人」 〜要は「お前、自炊しろ」ということ

ですか,はい、その通りです。(終)


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