だから悩んだ。たかが700円、されど700円。このまま貴重な生活費をアイドルの
ために浪費してよいのだろうか。そう思い悩みながら立ち読みを始めると、折も折、
ディスプレイの端に『月刊 吉岡美穂』が一冊、こちらを見つめて立っている。昼間の
明るい青の池を背景に、歩きがてらこちらを寂しそうに振り向く表紙上の吉岡は、
「私をコインランドリーに連れてって」とでも言うかのようだ。買おうか買うまいか悩んで
いる本がたまたま一冊しか無い場合、その本は自分に買われるべき運命なのだと
錯覚してしまう、そんな経験が、皆さんには無いだろうか。この時の私はまさにそう
いう錯覚に陥っていた。700円?安いもんさ。奨学金?アイドルのためよ〜『月刊
吉岡美穂』はこうして、私に買われるところとなった。
その頃コインランドリーではやっとすすぎが終わって、乾燥機が回り始めたばかり。
アパートへの帰路につけるのは少なくとも30分後。コンビニで読みたい本も特に
無かったので、立ち読みしている時間が永遠のように思えて苦痛だった。だから
残りの30分はコインランドリーで、先ほど購入した『月刊 吉岡美穂』を鑑賞する
ことにした。
面積にして十畳程ある縦長のコインランドリーには大小合わせて13台ほどの洗濯
機と乾燥機がある。私はその中で一番容積の小さい、高さ1メートル位の洗濯機の
ふたの上に写真集を置いて、広げ始めた。ああ、この娘に見る脱力感の気持ちよい
こと!肌にへばりついたセパレーツ水着の、脇下にある薄手の生地が、適度に肉の
ついた脇にぎゅっと挟まれて身動きの取れない辺りは、あたかも山ほどのマシュマロに
包まれているようで、気持ちよさそうに見える。ああ、あのセパレーツ水着になりたい、
そして挟まれたい!などと妄想を膨らませていた。